画材カバンを肩に掛け、電車から降り立った僕を出迎えたのは、
どこか
既視感(デジャヴュ)に似た感覚。

 いつか遠い昔に来た事があるかのような想いすら抱かせる、雪景色の小さな田舎町。
 その素朴な情景は、何も言わずに僕を迎え入れてくれる――普通じゃない僕ですらも。
 田舎町の情景を好んで描く画家、なんて言われるけど、それだって……本当はそれが理由だ。

 ───都会は騒々し過ぎるから。

 人の数だけ想いが渦巻き合って、辺り構わず自らの毒を撒き散らす。
 そんな想念の
坩堝(るつぼ)は、「視えなくてもいいものたち」を引き寄せるから。  

 この見ることが出来ないものを"視る眼"が──それらを見つけてしまうから。
 だから僕は逃げるように、こんな田舎の静かな町にやって来るんだ……。

 絵の題材探しの為、山を当て所もなくさ迷っていた僕は……まるで何かに導かれるように、山奥へと足を踏み入れていた。
 そこには、まるで人々に忘れ去られたかのように、ひっそりと── 一つの神社がたたずんでいた。

 この神社に、何かがある気がしたから。
 この町に降り立った時から、ずっと予感があったから。
 僕が失った、かけがえのないものが。
 懐かしくて愛しい何かが。

 僕は、本殿の引き戸に手を掛ける。
 本殿という禁忌の核心部へ踏み込む畏れおおさと、本殿にある"何か"の正体を目の当たりする期待感とで胸が高鳴った。

 開いた戸から差し込んだ光が、薄暗い本殿の中央に祀られた御神体を、僅かに浮かび上がらせた。
 飾り立てられ、礼拝の対象として安置された木彫りの少女人形。
 その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた……それは、まるで……。

「こま……」
 

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